孫の代まで使へるヴィンテージ製麺機を手に入れた話
昨年、念願のパスタマシン(こんなの)を購入してからというもの、暇さえあればラーメンをメインにたまにソーキそば、やきそば、パスタなどいろいろな麺を自作してきた。
家族からは「市販の麺の方がうまいね」などとも言われへこんだりしたが、徐々にコツをつかんできて、イメージに近い麺を打てるようにもなりだんだんと楽しくなってきていた。
そんな素敵な製麺ライフを送っていたある日、パスタマシンが突然壊れた。
「切刃」という麺を切るパーツを回す歯車がかみ合わなくなりハンドルが回らなくなってしまったのだ。
ネットで調べるとパスタマシンが壊れる定番パターンのようでこうなるともうお陀仏らしい。
しかたがないので家にある普通の三徳包丁でラーメンの麺切りにチャレンジしてみたが・・・
三徳くんでは長さが足りず柳葉くんも出動させてこの極太具合。
もううどんかと。
これはこれで手作り感があって、おいしいのだけど切った麺同士がくっついたりそれをほぐしたりと時間がかかりやたらと面倒くさい・・・うーむ。
安西先生、新しい製麺機がほしいです。
ということで、酒が入って機嫌がいい時の安西嫁に相談すると1万円以内なら新しいの買っていいよーとのこと。
よし!それなら今度はパスタマシンではなく、ちょっとやそっとで壊れない「鋳物製麺機」を探そう。
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ヤフオクで製麺機探し
「鋳物製麺機」とは自作ラーメンマニアなどから密かな人気を呼んでいる(と思われる)鋳鉄で作られた頑丈な家庭用製麺機。
なかでも「小野式製麺機」(こんなの)は人気がある。
しかし残念なことにこのタイプの製麺機は現在は製造されていない。
手に入れられるのは昭和期頃に生産された中古品。いわばビンテージ製麺機だ。
レプリカの新品も販売されてはいるようだが4~5万円ほどするらしい。
超高いんですけどー。
じゃあ中古はお幾ら位かしら、とヤフオクを探すと使用感が少ないもので落札価格が1万円~が相場。
なんとか1万円以内で整備すれば使えそうなのがないかな、と探したがなかなか手頃な出物には巡り合えない。
そんなお昼休みはヤフオクウォッチングなある日、
「東沢式製麺機」
という見慣れない型の製麺機を発見した。
出品者が撮った写真を見ると緑色に塗装されたボディに丈夫そうなギア。
小野式製麺機と同じような鋳物(鋳鉄)製麺機だ。
台座から延びる脚部には見慣れない字体で「東沢式」と刻印されている。
出品価格は保存状態と見比べても小野式の相場に比べて安い。
競らなければ1万円以内で落とせそう。
少し悩んだが使っている人もいなそうだしコレはコレで面白い、人柱だーと「入札」をポチっと。
すると他に誰も入札しなかったためそのまま落札してしまった。拍子抜けである。
実はヤフオクでモノを買うのは人生で2回目だったこともあり、これは地雷踏んだかな?と不安になりながらも入金。
果たしてこいつで麺を作ることができるのか――
前置きが長くなったが届いてから整備するまでの話を書いてみたい。
そして東沢くんが届いた
入金して2日後、大きな段ボールに納められた新たな相棒、東沢君が届いた。
段ボールから東沢君を取り出し持ち上げてみるとめちゃくちゃ重い。7Kgもある。
壊れたパタマシンは3Kgくらいだったから比較にならないくらい大きくどっしりしている。
外見をざっと見てみると部分的に錆ついてはいるがまずまず想定内の状態だ。
麺を延ばすロールや切り刃、ギヤなどの金具は比較的キレイで一安心。
台座に貼られたプレートには
「孫の代まで使へる農機具の店 柳田農蚕機商會」
とある。
旧仮名遣いと電話番号の桁数に時代を感じる。ノスタルジック。
出品者のコメントによるとこの製麺機は昭和中期頃に製造されたモノらしい。
昭和30年頃に製造されたとすると60年前か。
最初は誰が買ったのかわからないけど、自分はもう孫の世代だ。たぶん。
しっかり整備して使わせてもらいますよ。どこかのおじいさんかおばあさん。
各パーツを見てみると基本的な機構は小野式とほぼ同じっぽい。
でもハンドルからの動力を伝えて圧延ロールを回すメインギヤは写真で見るよりはやや小ぶりかな。
持ってはいないので比較はできないがギア周りは小野式の旧型というのに似ているかもしれない。
ハンドルを回してみると各ギヤはスムーズに回る。
ためしに切刃に紙切れを通したらシュッとキレイに切れた。刃はまったく問題なく使えそうだ。
古い製麺機は無駄のないシンプルで飾り気のない無骨なデザインのものが多いが東沢式は脚部に遊び心があり、どことなく古い手回しかき氷機のような涼し気な雰囲気が漂う。
ボディに大きな損傷はないが、塗装された緑色が妙に鮮やかすぎる。作られた年代を考えると後年塗装されたものと思われる。
最初に小麦粉の固まりを入れる箇所を囲うホッパーという部品。
これもあとから塗装されたようでポスカの銀色のようなラメっぽい色で、写真ではわかりにくいがよく見ると安っぽい。
まぁ細かい部分は気にせずこれはこのまま使用しよう。
ホッパーを外すとローラーの両脇に生地が溢れ出ないようにするためのストッパー役の木製のパーツが据え付けられている。
しかし経年劣化のせいか部分的に黒ずんで朽ちている。
これは自分で新しく拵え直すしかなさそう。
下側から除くとローラーの下についている延ばした生地をこそげ落とすための金属プレートがついているが・・・
外してみると錆びて絶望的にボロボロな状態・・・
しかし生地に触れるパーツだからなんとかキレイにしたい。
整備する
とりあえず錆や汚れを落とすために分解する。
あとで組み立て直すときに困らないように、「ふむふむ、あぁこうなっているのかー」と一人つぶやきながらデジカメでパシャパシャ写真を撮って、facebookにアップしてたら翌朝嫁様から「気持ち悪かったです」というコメントをもらった。
とにかくまずは金属パーツの錆や汚れを落さねば。
ネットで調べると古いバイクを整備するとき錆を落とすの最終兵器としてサンポールがよく使われるらしい。製麺機の掃除でも使用するチャレンジャーがいるらしいが、とりあえず「クエン酸」でも落ちるらしいので試してみる。サンポールはなんか怖いし。
100円ショップで買ったクエン酸をバケツに入れたお湯に溶かし分解した金属パーツを突っ込む。
2時間ばかりして錆が反応し水の色が赤くにごっている。取り出すとだいたい錆は落ちている。
しかしこのままだと酸性を帯びて錆びやすいらしいので家にあった料理用の重層を溶かし入れアルカリ性で中和しすすぐ。写真はないが重層を入れた瞬間、ボワっと泡が立ち科学実験みたいでおもしろかった。
サビが全然落ちなかったパーツはもっかいやり直し。
濃いめのクエン酸水溶液にもう一晩つけた後、歯ブラシと紙ヤスリでこすったらなんとか錆は落ちた。
この後各金属パーツはドライヤーでよく乾かした。
木製パーツはホームセンターで木っ端を安く買ってきて糸鋸で切り抜く。(黒いのがオリジナルで白いのが自分で切ったもの)
何度も失敗してようやくギリギリ及第点レベルのものが切り抜けたので、紙ヤスリ、彫刻刀を駆使し細かい溝など入れオリジナルに近い形に加工した。
彫刻刀を握るのは小学生の時以来だったので指を切って流血したりとこの作業が一番面倒でしんどかった。
製麺までの道は遠い・・・
もしこのブログエントリーを読んで中古の製麺機を買おうと思った方がいれば、私は声を大にして忠告したい。
多少出費がかさんでもキレイで状態が良い製麺機を探すことをオススメします!
ということでなんとか2日かけて全工程が終わったのでパーツを組み直す。
シャリバナーレという食品加工機械用の潤滑油を各パーツにさして一丁上がり。
試し打ちをする
ようやくここまで来たか・・・
33%位の加水率で適当に水回しした小麦粉をこねて生地を作り軽くまとめてセット。
ハンドルをぐるぐるまわしローラーで麺を伸ばし「圧延」する。
この作業はパーツの隙間などに残っている錆やヨゴレの掃除を兼ねているので生地がところどころ黒くなる。
パスタマシンだとギシギシいい出す生地の硬さだが、さすがの鋳物製麺機、東沢君は音もたてず力強いグイグイ延していく。
麺生地を重ねて延ばす「複合圧延」をしても余裕で巻き取っていく。
夢中になって写真撮るのを忘れていたが、麺切り刃に通すとこの通り。
なんともなめらかで綺麗な麺ができた。
我が製麺機の動作に問題なし!これまでの不安と苦労が吹き飛んだ。
もう一回まとめて延して今度は厚さ1mmの麺にしてみたり。
まだまだ全然現役じゃないですか、東沢パイセン!
ちゃんとメンテして使えば孫の代といわず曾孫の代までいけるんじゃないか?
これから大事に使いたい。
ちなみにこの「東沢式製麺機」をネットで検索し情報を探してみたが全くといっていいほど情報が出てこなかった。
唯一、オークションで見つけてから情報を探しているときに購入した「趣味の製麺」3号にグラビア写真(笑)が載っていたのだがここにも東沢君の出自に関する詳しい情報は見つからなかった。
(ちなみに「趣味の製麺」はデイリーポータルZの記者さんが刊行している同人誌で自家製麺好きにはとてもオススメです。自家製麺についてはかなり参考にさせてもらいました)
というか東沢式製麺機ってどんだけの台数売れたんだろう。まぁ少なそうだけど。
ギターメーカーで例えるならメジャーな小野式製麺機がギブソンとかフェンダークラスなのに対してこいつはそれをコピーしたヤマハとエピフォンとかそういう感じなんだろうか。もしくテスコとかビザール的なそんな感じか、違うかー。
今も使っている家庭はあるのかな。
誰か使っている人や詳しい人がいたら教えて欲しい。
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